東京高等裁判所 平成5年(行ケ)205号 判決 1998年9月03日
アメリカ合衆国
コネチカツト州、06817、ダンバリー、オールド・リッジバリー・ロード 39番
原告
ユニオン、カーバイド、コーポレーション
代表者
カレン、エル、ジョンソン
訴訟代理人弁理士
高木六郎
同
高木文生
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官
伊佐山建志
指定代理人
後藤千恵子
同
中村友之
同
廣田米男
主文
1 特許庁が昭和63年審判第1938号事件について平成5年7月15日付でした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
主文と同旨
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 請求の原因
1 特許庁における審理の経緯
原告は、1981年1月23日及び1981年3月12日のアメリカ合衆国の出願に基づく優先権を主張して、昭和57年1月22日、発明の名称を「蒸気状態におけるシュウ酸ジエステルの生成」とする発明について特許出願(昭和57年特許願第7711号。以下「本願発明」という。)をしたところ、昭和62年10月23日に拒絶査定を受けたので、昭和63年2月18日に拒絶査定不服の審判を請求し、昭和63年審判第1938号事件として審理され、平成5年7月15日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受け、平成5年8月4日にその謄本の送達を受けた。なお、この審決に対する訴訟提起期間として90日が付加された。
2 本願発明の特許請求の範囲
本願明細書中の特許請求の範囲の欄の記載は、次のとおりである。
「(a) 1よりも大きい酸化窒素対二酸化窒素のモル比を有する窒素酸化物組成物のモル量と気化したメタノールまたはエタノールのモル量であって、この場合メタノールまたはエタノール対酸化窒素と二酸化窒素との合計モル量のモル比が1よりも大きい前記モル量とを、反応帯域において、該反応に対する不活性気体希釈剤の存在下に、約10℃と約130℃との間の温度において、亜硝酸のメチルエステルまたはエチルエステルを含有する流出物を生成するのに十分な時間にわたって反応させ、この場合該反応によって副生物として水を生成させることによりメタノールまたはエタノールからそれぞれ亜硝酸のメチルエステルまたはエチルエステルを製造し、
(b) 前記工程(a)からの流出物より水を5.0重量%以下の量になるまで除去し、
(c) 前記工程(a)の亜硝酸のメチルエステルまたはエチルエステルを、工程(d)におけるそれらから有害量の水を除去した後、蒸気状態において、一酸化炭素と、約10m2/gよりも小さい表面積を有する非酸性坦体上の金属パラジウムまたはその塩より成る金属パラジウム坦持触媒の存在下に、約50℃と約200℃との間の温度において、シュウ酸のメチルジエステルまたはエチルジエステルと窒素酸化物含有流出物が生成されるようにして接触させ、次いで
(d) 前記工程(c)からジエステルを回収し、前記工程(c)の窒素酸化物含有流出物の少くとも一部を前記工程(a)に再循環させる
ことを特徴とするシュウ酸のメチルジエステルまたはエチルジエステルの連続的蒸気状態製造方法。」
3 審決の理由
審決の理由は、別添審決書の理由の写し記載のとおりであって(ただし、6頁8行目に「酸化窒素」とあるのは「一酸化炭素」、8頁15行目に「本出願公知であり、」とあるのは「本出願前公知であり、」の誤記と認める。)、本願発明と特開昭54-103817号公報(以下「引用例」という。)記載の発明とを比較すると、酸化窒素などの窒素酸化物とアルコールを反応させて亜硝酸のアルキルエステルを製造し、引き続いて、蒸気状態において、一酸化炭素と、坦体上に金属バラジウム又はその塩よりなる金属バラジウム坦持触媒の存在下に、約50℃と約200℃との間の温度において、シュウ酸のアルキルジエステルと窒素酸化物含有流出物が生成されるようにして接触させ、次いで、ジエステルを回収すると共に窒素酸化物含有流出物の少なくとも一部を亜硝酸のアルキルエステルの製造工程に再循環させることを特徴とするシュウ酸のアルキルジエステルの連続的製造方法であるという点で一致しており、他方、前者は、前記シュウ酸のジアルキルエステルの生成反応で水は反応を阻害するという知見に基づき、亜硝酸のアルキルエステルを製造後、同時に生成する水を分離除去する工程を経て、亜硝酸のアルキルエステルをシュウ酸のアルキルジエステルの製造工程に導いているのに対し、後者では、水は反応を阻害するほどには含まない状態で、シュウ酸のアルキルジエステルを製造している点(以下「相違点<1>」という。)、前者は、窒素酸化物とアルコールを気相で反応させるのに対して、後者では、気液相で行っている点(以下「相違点<2>」という。)及び前者では、亜硝酸のアルキルエステルを製造するに際し酸化窒素とで二酸化窒素のモル比、窒素酸化物とアルコールの割合を特定し、また、亜硝酸のアルキルエステルと酸化窒素を反応させる際に用いる触媒に関し、坦体の表面積を特定しているのに対し、後者では、これらの数値を特定していない点(以下「相違点<3>」という。)で相違するところ、次のとおり、本願発明は、引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
(1) 相違点<1>について
引用例には、亜硝酸のアルキルエステルと一酸化炭素を反応させて、シュウ酸のアルキルジエステルを製造する反応では、水が存在すると反応を阻害することが示唆されており、したがって、亜硝酸のアルキルエステルと一酸化炭素を反応させて、シュウ酸のアルキルジエステルを製造する際に水の存在が反応を阻害するという知見は本願出願時点で新規ではなく、シュウ酸のアルキルジエステルの反応に先立って、あえて水を除去するようにすることは当然であり、反応を水が存在しない状態で行うこととする点に技術上格別の工夫があったものとは認めることができない。
(2) 相違点<2>について
窒素酸化物とアルコールの反応を気相で行うことは、本願明細書に従来技術として記載されているように本出願前公知であり、前記反応を気相で行うにしても、シュウ酸のジアルキルエステル工程と結び付けるに際して反応原料及び生成物の処理の点で技術上格別工夫を要した点があったものとは認めることができないので、引用例に記載されている気液相で行うことに代えて、気相で行うこととすることは、単に従来から知られている手段に置き換えたに過ぎないものと認められ、置き換えたことにより得られる効果にしても、予期しえない程度の効果を奏し得たものとは認めることができない。
(3) 相違点<3>について
アルコールと反応させる窒素酸化物に関して、酸化窒素と二酸化窒素の割合を特定すること、窒素酸化物とアルコールの割合を特定すること及びバラジウム触媒を担持する担体の表面積を特定することは、本願明細書に従来技術として記載されていることがらであり、本願発明で定められている範囲が技術的に見て格別のものとは認められないし、引用例に記載されている方法においても、従来知られている範囲の値として特定することに技術上格別の工夫があったものとは認めることができないし、また、その結果予期しえない程度の効果を秦し得たものとは認められない。
4 審決取消事由
審決書の理由1の出願の経緯及び発明の要旨、同2の引用例の記載、同3の対比(上記3の一致点と相違点の認定)は認め、同4の相違点についての判断は争う(ただし、引用例の記載は認める。)。
(1) 取消事由1(相違点<1>について)
本願発明は、脱水工程を必須の要件としており、いかなる場合においても、積極的に脱水工程を挿入するのに対し、引用例記載の発明は、亜硝酸エステルの炭素原子数3以下の場合には水が共沸しないので脱水は不要であるとされている。この場合、水が共沸しなくても水は蒸発し同伴されるのである。引用例記載の発明は、共沸以外の蒸発による水の存在は問題としないとしている。したがって、技術上格別の工夫があったものと認めることができないとする審決の判断は誤りである。
被告は、水の除去に関して乙第1号証を引用しているが、乙第1号証記載の方法は、亜硝酸エステルと一酸化炭素との気相反応によりシュウ酸ジエステルを製造する本願発明とは本質的に相異するものであり、本願発明とは無関係である。
また、被告は、シュウ酸ジエステルの製造において水の除去が必要なことは、甲第7号証(特許第1869017号の出願公告公報)から明らかであると主張するが、同号証は、バッチ法において、好ましくは有害量の水が存在しないこと、また、ある量の水は黙認しうることを補足的に記載しているに過ぎず、脱水条件(脱水状態)を必須の要件とする本願発明のリサイクル法と同一視することはできない。
(2) 取消事由2(相違点<2>について)
シュウ酸ジエステルの製法において、従来の液相法は、触媒のロス、大量の副生成物の生成、生成物に対する低い効率といったような欠点を有していた。これに対して、本願発明の完全な気相法を達成するためには、亜硝酸エステル生成工程及びシュウ酸ジエステル生成工程が共に気相反応であることが重要である。本願発明は、完全な気相法であるのに対し、引用例記載の発明は、気液接触反応であり、引用例記載の発明は、本願発明の好ましい条件を達成するものではない。気相反応に比較して気液接触反応においては触媒の損失が大きく、効率も低い。本願発明は、完全な気相法である故、操作全体が副生物の生成を最小化し、触媒の寿命を増大させ、シュウ酸ジエステルの任意の生成物への高い転化率を与えるメリット(利点)が得られるのである。したがって、気液相の代わりに気相を行うことによって得られる効果を否定する被告の主張は誤りである。
(3) 取消事由3(相違点<3>について)
本願発明は、次のとおり、数値の特定を包含する改良発明である。
(イ) アルコールと反応させる窒素酸化物に関して、酸化窒素と二酸化窒素の割合を特定すること。
本願発明の特許請求の範囲にいう「1よりも大きい酸化窒素対二酸化窒素モル比とすること」は、本願発明者等によって鋭意研究の結果開発された新知見であり、最小ないし皆無の硝酸の生成を伴って、亜硝酸アルキルを高収率で生成させる結果が達成されたのである。
(ロ) 窒素酸化物とアルコールの割合を特定すること。
本願発明の特許請求の範囲にいう「メタノールまたはエタノール対酸化窒素と二酸化窒素との合計モル量のモル比を1よりも大きくすること」も、本願発明者等によって鋭意研究の結果開発された新知見であり、最小ないし皆無の硝酸の生成を伴って、亜硝酸アルキルを高収率で生成させる結果が達成されたのである。
(ハ) パラジウム触媒を担持する担体の表面積を特定すること。
本願発明の特許請求の範囲にいう「約10m2/gよりも小さい表面積を有する非酸性担体上の金属パラジウムまたはその塩より成る金属パラジウム担持触媒」もまた、本願発明者等によって鋭意研究の結果開発された新知見である。
本願発明においては、「気相」において気化したアルコールと反応させる原料の窒素酸化物の酸化窒素と二酸化窒素との割合は特定化されており、また、該窒素酸化物と気化したアルコールとの割合も特定されている。この気相接触反応により硝酸はほとんど生成せず、したがって、亜硝酸アルキルが高収率で生成されるのである。引用例記載の発明は、本願発明で使用する原料とは異なる非凝縮ガス(一酸化炭素及び一酸化窒素)と液状のアルコールとの気液相反応であって、本願発明のように反応は進行しない。本願発明によれば、硝酸がほとんど生成しないことにより、亜硝酸アルキルを一酸化炭素と反応(気相接触)させてシュウ酸のアルキルジエステルを生成する際のパラジウム触媒を不活性化するのが回避される効果、換言すれば、触媒の寿命を増大させる効果が得られ、ひいては、シュウ酸ジエステルへの高い転化率を与える利点も得られるのである。
本願発明の実施例における二酸化窒素の使用については、本願明細書における表Ⅱ~Ⅷの流れC(FIG.2の亜硝酸エステル反応器への供給流れ)に示されているとおり(別表参照)、酸化窒素は酸素と反応して二酸化窒素を生成する。したがって、実際には二酸化窒素が使用されていることは当業者が容易に理解するところである。酸化窒素と酸素との割合は4:1よりも小さくなっている。酸化窒素2モルと酸素1モルとで二酸化窒素2モルが生成されるので、残留酸化窒素と生成二酸化窒素とのモル比は1よりも大きいのである。よって、本願発明の「1よりも大きい酸化窒素対二酸化窒素モル比」及び「アルコール対酸化窒素と二酸化窒素の合計モル量の比が1よりも大きい」と特定することは裏付けられているのである。
第3 請求の原因に対する認否及び被告の反論
1 請求の原因1ないし3の各事実は認める。同4は争う。審決の認定判断はすべて正当であって、原告の審決の取消事由はいずれも理由がない。
2 取消事由についての被告の反論
(1) 取消事由1について
審決に記載されているとおり、引用例には、本願発明と同様の連続循環方法において、亜硝酸アルキルエステルの生成工程で生じる水が、シュウ酸ジアルキルエステルの生成反応を抑制することが明確に記載されている(3頁右上欄19行ないし左下欄12行)のであるから、シュウ酸ジアルキルエステルの生成工程で使用する亜硝酸アルキルエステル含有ガスが、該亜硝酸アルキルエステル生成に際し生成した水をシュウ酸ジアルキルエステルの生成反応を抑制するような量まで含まれることがないように、シュウ酸のアルキルジエステルの反応に先立って、あえて水を除去するようにすることは当然であり、反応を水が存在しない状態で行うこととする点に技術上格別の工夫があったものとは認められないとした審決の判断に誤りはない。
(2) 取消事由2について
窒素酸化物とアルコールとの反応を気相で行うことは、本願発明出願前公知の従来技術に過ぎない。そして、引用例記載の発明においては、窒素酸化物とアルコールとの気液相反応により特に亜硝酸メチルエステル及び亜硝酸エチルエステルを製造する場合には、シュウ酸ジアルカリエステル生成工程で、利用される亜硝酸エステル含有ガスに、生成する水が移行することがないため、そのままの状態で循環供給できる、すなわち、水除去工程を省略できる旨の記載もある(3頁左下欄7ないし12行)から、本願発明の採用する気相法が、引用例の気液相法に比べ、特に優れた方法であるとはいえない。したがって、審決の判断に誤りはない。
(3) 取消事由3について
(イ) 窒素酸化物とアルコールの使用組成の特定
本願明細書において従来技術として引用されている米国特許第2831882号明細書(乙第2号証)には、気相法による亜硝酸エステルの製造法が開示され、そこには、アルコール1モル当たり0.4ないし2.0モルの酸化窒素及び0.4ないし0.6モルの二酸化窒素とを、不活性ガスの存在下反応させる方法が記載されている。これらのモル比に基づいて計算すると、乙第2号証の気相法亜硝酸エステル製造法における二酸化窒素に対する酸化窒素のモル比は、0.66~5.0、アルコール対酸化窒素と酸化窒素との合計モル量の比は、0.8~2.6となるから、本願発明におけるアルコールと反応させる窒素酸化物組成物の酸化窒素対二酸化窒素モル比、アルコール対酸化窒素と二酸化窒素との合計モル量のモル比は、従来技術の気相法におけるものと実質的に変わるものではない。
また、本願明細書を見ても、実施例では酸化窒素量だけが記載されて二酸化窒素の使用量は不明であり、酸化窒素と二酸化窒素とのモル比及びこれらの合計モル量は特定できないから、このことからも、原告が主張する「1よりも大きい酸化窒素対二酸化窒素のモル比」及び「アルコール対酸化窒素と二酸化窒素との合計モル量のモル比が1よりも大きい」と特定することにより、最小ないし皆無の硝酸の生成を伴って亜硝酸アルキルエステルを高収率で得ることができるという効果についての裏付けは全くないというべきである。
(ロ) 触媒についての特定
本願明細書において触媒の分野の従来技術として示されている米国特許第4038175号明細書(乙第3号証)には、10m2/gよりも小さい表面積を有する非酸化性坦体が記載されているから、このような表面積を有する触媒坦体は何ら特別なものではなく、従来技術に属するものである。
したがって、審決の認定に誤りはない。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の特許請求の範囲)、同3(審決の理由)は、当事者間に争いがない。
第2 成立に争いのない甲第2号証(本願発明についての公開特許公報)及び甲第6号証(昭和63年10月3日付手続補正書)によれば、本願発明の概要は、次のとおりであることが認められる。
本願発明は、窒素酸化物、アルコール及び一酸化炭素からのシュウ酸ジエステルの製造に対する新規な蒸気状態法に関するものである。(甲第2号証3頁左上欄14行ないし16行)
本願発明以前においては、シュウ酸ジエステル(シュウ酸エステル)の生成に対し、種々の触媒系、共触媒、反応促進剤などを使用する慣用の液相法が提案されていた。しかしながら、これらの慣用方法は、慣用の液相法から生ずる重大な影響を受けていた。(同頁右上欄9行ないし13行)
本願発明の方法は、その特許請求の範囲記載のとおりの構成によるシュウ酸のメチルジエステル又はエチルジエステルの連続的蒸気状態製造方法であって、窒素酸化物と飽和一価脂肪族アルコールのような、炭素原子1ないし8個を有するアルコールとを、蒸気状態で、亜硝酸エステル生成反応帯域において、亜硝酸のエステルを生成するのに十分な時間にわたって接触させ、該亜硝酸のエステルを蒸気状態に保ち、次いで、前記亜硝酸のエステルを、好ましくは有害な水の除去後に、一酸化炭素と、蒸気状態で、シュウ酸エステル生成反応帯域において、約50℃と200℃との間の温度のもとに、パラジウムが金属パラジウム含有触媒上において接触されてシュウ酸ジエステルを生成することにより成るシュウ酸ジエステルの製造を包含する。好ましくは、本願発明の方法は、連続的に、かつ、少なくとも1回の循環(再循環)ガスの流れが存在する循環法として操業する。(4頁右下欄下から2行ないし5頁左上欄14行)
第3 原告主張の審決取消事由中、まず取消事由3について判断する。
1 本願発明と引用例記載の発明とを比較すると、前者では、亜硝酸のアルキルエステルを製造するに際し酸化窒素とで二酸化窒素のモル比、窒素酸化物とアルコールの割合を特定し、また、亜硝酸のアルキルエステルと酸化窒素を反応させる際に用いる触媒に関し、坦体の表面積を特定しているのに対し、後者では、これらの数値を特定していない点で相違することは、当事者間に争いがない。
2 成立に争いがない甲第2号証によれば、本願明細書には、「亜硝酸のエステルを製造する方法は、該亜硝酸のエステルが気体窒素酸化物とアルコール蒸気とから、しかもシュウ酸エステル反応に有害な成分の存在を最小化して、蒸気状態において製造される限り、厳密に臨界的ではない。上記有害な成分はシュウ酸ジエステルの生成に使用される担持されたパラジウム触媒に悪影響を及ぼすことのある硝酸である。」(5頁左下欄14行ないし右下欄1行)、「特に有利な方法であり、しかも亜硝酸メチルまたはエチルエステルが使用される場合の本発明の好ましい方法が・・・1981年1月23日出願の同時係属米国特許出願通番第227798号明細書及び本願と同時に出願した同時係属米国特許出願通番第(ドケット番号13088-1)号明細書に開示されている。・・・これらの特許出願明細書において、亜硝酸のエステルの製造に対する新規な方法が開示されており、該方法は特に亜硝酸メチルまたは亜硝酸エチルの製造に関する。該明細書に開示される方法は、幾分かは下記の方程式を参照することにより、より十分に理解することができる。
(1) 2NO+O2→2NO2
(2) NO2+NO〓N2O3
(3) 2ROH+N2O3→2RONO+H2O
(4) ROH+N2O3→RONO+HONO
(5) ROH+HONO→RONO+H2O
(6) 2NO2〓N2O4
(7) ROH+N2O4→RONO+HNO3
上式中、Rはメチルまたはエチルである。
該明細書に開示されている気相法の目的は蒸気状態における亜硝酸メチルまたは亜硝酸エチルの生成を最大とし、その一方において硝酸及びその他の好ましからざる副生成物の生成を最小化、または好ましくは実質的に排除することである。したがって、方程式(2)により特徴づけられる反応において生成した生成物が方程式(3)及び(4)において使用されるものと思われる。上記反応(4)は反応(5)に対し亜硝酸を供給する。上記反応の連続、すなわち(1)から(5)までは好ましいけれど、方程式(6)及び(7)により特徴づけられる反応は、硝酸を生成するので回避すべきである。」(5頁右下欄2行ないし6頁左上欄18行)、「そのほかにこの方法は驚くべきことには、特定モル比のNO、NO2及びROHを供給することにより、最小ないし皆無の硝酸の生成を伴って、亜硝酸アルキルが高収率で生成されるであろうことを開示している。これらの結果を達成するためには酸化窒素対二酸化窒素のモル比は、それが1より大きく、しかもアルコール対酸化窒素と二酸化窒素との合計モル量のモル比が1よりも大きいように設定する。これら二つのモル比を、このように相関させることにより、該明細書に開示されている新規方法が遂行される。」(6頁左上欄19行ないし右上欄9行)、「該方法は一般的に酸化窒素及び酸素を導入して必要量の二酸化窒素を生成させる(上記方程式(1)参照)ことにより行う。この場合、酸化窒素対生成される二酸化窒素のモル比が1よりも大であるように、酸化窒素と酸素とを4:1よりも大きいモル比において供給することにより酸化窒素対二酸化窒素のモル比を1以上に保つ。・・・換言すれば、上記酸素の量は酸化窒素の50%以下を二酸化窒素に転化させる量である。」(6頁右上欄16行ないし左下欄5行)という記載があることが認められる。
上記記載によれば、亜硝酸のエステルの製造において、副生成物たる硝酸が、シュウ酸ジエステルの生成に使用される担持されたパラジウム触媒に悪影響を及ぼす有害な成分であるから、この硝酸の生成を抑えることが望まれるところ、本願発明では、この硝酸の生成を抑え、又は実質的に排除するために、次のとおりの方法を採用したものである。
(1) 亜硝酸のエステルの製造において、余分な二酸化窒素(NO2)が存在すると、方程式(6)及び(7)の反応、すなわち
2NO2〓N2O4
ROH+N2O4→RONO+HNO3
により副生成物の硝酸(HNO3)が生成される。
(2) 他方、二酸化窒素(NO2)は、方程式(2)ないし(5)の反応、すなわち、
NO2+NO〓N2O3
2ROH+N2O3→2RONO+H2O
ROH+N2O3→RONO+HONO
ROH+HONO→RONO+H2O
によってRONOの原料であるN2O3を生成するものである。
(3) したがって、二酸化窒素(NO2)は、N2O3を生成するために必要最小限の量さえ存在すればよい。
(4) 酸化窒素(NO)対二酸化窒素(NO2)のモル比を1よりも大きくすれば、方程式(2)の反応、すなわち、
NO2+NO〓N2O3
において、酸化窒素(NO)対二酸化窒素(NO2)とが反応したとき、二酸化窒素(NO2)はなくなって、酸化窒素(NO)のみが残存することになる。
(5) そうすると、硝酸(HNO3)の生成を押さえるためには酸化窒素(NO)対二酸化窒素(NO2)のモル比を1よりも大きくすればよい。
(6) また、方程式(2)の反応、すなわち、
NO2+NO〓N2O3
は、可逆反応であるから、N2O3が存在すれば、これから酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO2)が生成される。
(7) アルコール(ROH)が、N2O3の2倍以上存在すれば、方程式(3)の反応、すなわち、
2ROH+N2O3→2RONO+H2O
において、N2O3が完全に消費されてアルコール(ROH)のみが残存することになり、その結果、
N2O3→NO2+NO
の反応は起こらず、二酸化窒素(NO2)が生成されないことになる。
(8) そうすると、硝酸(HNO3)の生成を押さえるためには、アルコール(ROH)対酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO2)との合計モル量のモル比を1よりも大きくすればよい。
3 さらに、実施例を検討するに、前掲甲第2号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、「下記実施例1~7に対して図2が参照される。図2は本発明方法を実施するための装置を概略的に図示したものである。」(11頁左上欄8行ないし10行)、「必要に応じて分子酸素を導管106を経て窒素酸化物発生装置70に添加する。窒素酸化物発生装置70への分子酸素の添加は、該酸素の添加がエタノールの導入前であり、しかも可能性のある酸素によるエタノールの酸化、その結果としての有害な副生成物の生成を防止し、かつ可燃性混合物の生成を回避するために、酸化窒素との反応により該添加された酸素が実質的に消費されるように行われる。」(同頁右下欄4行ないし12行)、「導管104における再循環流出ガスを注意深く相関させることにより窒素酸化物発生装置70及び亜硝酸エステル反応器74における反応を最適化することができる。」(12頁右下欄4行ないし8行)、「下記のように実施例1~7を表Ⅱ~Ⅷにそれぞれ説明する。」(13頁右下欄15行及び16行)という記載があり、14頁ないし17頁に表Ⅱ(実施例1)、表Ⅲ(実施例2)、表Ⅳ(実施例3)、表Ⅴ(実施例4)、表Ⅵ(実施例5)、表Ⅶ(実施例6)、Ⅷ(実施例7)が示されていることが認められる(別紙図面及び別表参照)。
上記記載によれば、図2の流れC(窒素酸化物発生装置70から亜硝酸エステル反応器74への流れ)における酸化窒素と酸素の量及び酸化窒素と酸素のモル比は、
実施例 酸化窒素(モル%) 酸素(モル%) 酸化窒素/酸素
1 4.51 0.96 4.70
2 4.81 0.96 5.01
3 17.24 3.45 5.00
4 17.24 3.45 5.00
5 17.24 3.45 5.00
6 17.86 3.57 5.00
7 10.87 2.17 5.01
となっており、酸化窒素と酸素のモル比は、すべての実施例において4以上であり、この条件であれば、2モルの酸化窒素と1モルの酸素から2モルの二酸化窒素が生成され、2モルの二酸化窒素と2モルの酸化窒素から、2モルのN2O3が生成され、方程式(1)、(2)の反応として、
2NO+O2→2NO2
2NO2+2NO〓2N2O3
となり、酸化窒素と酸素のモル比が4以上であった場合、N2O3は生成されるが、二酸化窒素が残存することがなくなり、硝酸の生成を防止することができ、現に、実施例においてその効果を奏することが確かめられていることが認められる。
4 他方、引用例に、亜硝酸のアルキルエステルを製造するに際し酸化窒素とで二酸化窒素のモル比、窒素酸化物とアルコールの割合を特定する記載がないことは、前記のとおり当事者間に争いがないから、まして、1よりも大きい酸化窒素対二酸化窒素モル比とすること、メタノール又はエタノール対酸化窒素と二酸化窒素との合計モル量のモル比を1よりも大きくすることについての記載も示唆もないのである。
5 以上によれば、本願発明において、亜硝酸のアルキルエステルを製造するに際し酸化窒素と二酸化窒素のモル比、窒素酸化物とアルコールの割合を特定し、1よりも大きい酸化窒素対二酸化窒素モル比とすること、メタノール又はエタノール対酸化窒素と二酸化窒素との合計モル量のモル比を1よりも大きくすることとしている点において、技術的意義があることは明らかである。これに対して、引用例には、このような記載も示唆もないから、当業者において、このような引用例記載の発明に基づいて相違点3に係る本願発明の構成を得ることは容易になし得ることではないといわなければならない。
6 被告は、本願明細書において従来技術として引用されている乙第2号証には、気相法による亜硝酸エステルの製造法が開示され、そこには、アルコール1モル当たり0.4ないし2.0モルの酸化窒素及び0.4ないし0.6モルの二酸化窒素とを、不活性ガスの存在下反応させる方法が記載されており、これらのモル比に基づいて計算すると、乙第2号証の気相法亜硝酸エステル製造法における二酸化窒素に対する酸化窒素のモル比は、0.66~5.0、アルコール対酸化窒素と酸化窒素との合計モル量の比は、0.8~2.6となるから、本願発明におけるアルコールと反応させる窒素酸化物組成物の酸化窒素対二酸化窒素モル比、アルコール対酸化窒素と二酸化窒素との合計モル量のモル比は、従来技術の気相法におけるものと実質的に変わるものではない旨主張する。
成立に争いがない乙第2号証中には、被告が主張するように、「反応は気相で行われる。そして、反応原料は、1モルのアルコールに対して0.4ないし0.6モルのNO2、0.4ないし2.0モルのNO及び2ないし25モルの希釈物の割合で存在する。」旨の記載部分があることが認められるが、1よりも大きい酸化窒素対二酸化窒素モル比とすること、メタノール又はエタノール対酸化窒素と二酸化窒素との合計モル量のモル比を1よりも大きくすることに着眼しているものとは認められず、そのような酸化窒素と二酸化窒素のモル比、窒素酸化物とアルコールの割合の特定により本願発明のような効果が奏されることについて記載も示唆もされていないのであるから、被告の上記主張は失当というほかはない。
また、被告は、本願明細書を見ても、実施例では酸化窒素量だけが記載されて二酸化窒素の使用量は不明であり、酸化窒素と二酸化窒素とのモル比及びこれらの合計モル量は特定できないから、このことからも、原告が主張する1よりも大きい酸化窒素対二酸化窒素のモル比及びアルコール対酸化窒素と二酸化窒素との合計モル量のモル比が1よりも大きいと特定することにより、最小ないし皆無の硝酸の生成を伴って亜硝酸アルキルエステルを高収率で得ることができるという効果についての裏付けは全くないというべきである旨主張する。
しかし、前記認定のとおり、本願発明は、酸化窒素及び酸素を導入して必要量の二酸化窒素を生成させることにより行うものであり、酸化窒素と酸素のモル比が4以上であれば、(1)から(2)の反応系において、「二酸化窒素」が残存することなくN2O3が生成され、式(1)で、2モルの酸化窒素が消費されても、式(2)のために、2モル以上の酸化窒素が供給されることになり、式(2)では、1よりも大きい酸化窒素対二酸化窒素の比率となるから、酸化窒素と二酸化窒素とのモル比が特定されているのであって、被告の上記主張は、その前提を欠き、失当というほかはない。
7 以上によれば、相違点3についての審決の判断は、その余の点について検討するまでもなく、誤っており、したがって、相違点1、2についての審決の判断の当否を検討するまでもなく、本願発明が引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたとした審決は、違法として取消しを免れない。
第4 よって、本訴請求は、理由があるから、審決を取り消すこととし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成10年8月20日)
(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)
理由
1.本件出願は、昭和57年1月22日(優先権主張1981年1月23日、アメリカ合衆国)の出願であって、その発明の要旨は、昭和59年2月10日付及び昭和63年3月18日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の第1項に記載された、次のとおりのものと認める。
「(a)1よりも大きい酸化窒素対二酸化窒素のモル比を有する窒素酸化物組成物のモル量と気化したメタノールまたはエタノールのモル量であって、この場合メタノールまたはエタノール対酸化窒素と二酸化窒素との合計モル量のモル比が1よりも大きい前記モル量とを、反応帯域において、該反応に対する不活性気体希釈剤の存在下に、約10℃と約130℃との間の温度において、亜硝酸のメチルエステルまたはエチルエステルを含有する流出物を生成するのに十分な時間におたって反応させ、この場合該反応によって副生物として水を生成させることによりメタノールまたはエタノールからそれぞれ亜硝酸のメチルエステルまたはエチルエステルを製造し、
(b)前記工程(a)からの流出物より水を5.0重量%以下の量になるまで除去し、
(c)前記工程(a)の亜硝酸のメチルエステルまたはエチルエステルを、工程(b)におけるそれらから有害量の水を除去した後、蒸気状態において、一酸化炭素と、約10m2/gよりも小さい表面積を有する非酸性担体上の金属パラジウムまたはその塩より成る金属パラジウム担持触媒の存在下に、約50℃と約200℃との間の温度において、シュウ酸のメチルジエステルまたはエチルジエステルと窒素酸化物含有流出物が生成されるようにして接触させ、次いで
(d)前記工程(c)からジエステルを回収し、前記工程(c)の窒素酸化物含有流出物の少くとも一部を前記工程(a)に再循環させる
ことを特徴とするシュウ酸のメチルジエステルまたはエチルジエステルの連続的蒸気状態製造方法。」
2.これに対し、前置審査の拒絶理由で引用した特開昭54-103817号公報(以下引用例1という)には
「(1).(a).パラジウム金属またはその塩類を担持した固体触媒を充填した反応器に、一酸化炭素と亜硝酸エステルを含有するガスを導入して、気相で接触反応させて、シュウ酸ジエステルを含む生成物を得る第1工程、
(b).前記生成物を冷却により、一酸化炭素および第1工程の接触反応で生成した一酸化窒素を含有する非凝縮ガスと、シュウ酸ジエステルを含有する凝縮液とに分離する第2工程、
(c).第2工程における非凝縮ガスに、分子状酸素含有ガスおよびアルコールとを接触させ、生成した亜硝酸エステル含有ガスを、第1工程の反応器に循環供給する第3工程、
の各工程からなることを特徴とするシュウ酸ジエステルの連続的製法。」
が記載されている。
3.本願発明と引用例1に記載された発明を比較すると、「酸化窒素などの窒素酸化物とアルコールを反応させて亜硝酸のアルキルエステルを製造し、引続いて、蒸気状態において、一酸化炭素と、担体上に金属パラジウムまたはその塩より成る金属パラジウム担持触媒の存在下に、約50℃と約200℃との間の温度において、しゅう酸のアルキルジエステルと窒素酸化物含有流出物が生成されるようにして接触させ、次いで
ジエステルを回取すると共に窒素酸化物含有流出物の少くとも一部を亜硝酸のアルキルエステルの製造工程に再循環させる
ことを特徴とするしゅう酸のアルキルジエステルの連続的製造方法。
の点で一致しており、前者は、前記しゅう酸のジアルキルエステルの生成反応で水は反応を阻害するという知見に基づき、亜硝酸のアルキルエステルを製造後、同時に生成する水を分離除去する工程を経て、亜硝酸のアルキルエステルをしゅう酸のアルキルジエステルの製造工程に導いているのに対し、後者では、水は反応を阻害するほどには含まない状態でしゅう酸のアルキルジエステルを製造している点(以下第1点という)、前者は窒素酸化物とアルコールを気相で反応させるのに対して、後者では気液相で行っている点(以下第2点という)及び前者では亜硝酸のアルキルエステルを製造するに際し酸化窒素とで二酸化窒素のモル比、窒素酸化物とアルコールの割合を特定し、また亜硝酸のアルキルエステルと酸化窒素を反応させる際に用いる触媒に関し、担体の表面積を特定しているのに対し、後者ではこれらの数値を特定していない点(以下第3点という)で相違する。
4.次に、これらの相違点について検討する。
第1点に関して
一酸化炭素と亜硝酸のアルキルエステルを気相で反応させ、しゅう酸のアルキルジエステルを製造する反応は、従来より水が存在しない状態で行われてきており、その点からみれば水が存在しない状態で反応させることは格別新規な事項ではなく、また前記引用例1には、窒素酸化物とアルコールを反応させて製造した亜硝酸のアルキルエステルを引続いて一酸化炭素と反応させる工程に導く際に、
「再生された亜硝酸エステルが亜硝酸n-ブチル、亜硝酸n-アルミなどのように炭素原子数が4個以上のアルコールのエステルの場合は、再生反応の際副生する水と共沸組成を形成し、再生ガス中に水を同伴する。従って、このガスをそのまゝ第1工程の反応器に供給すると、水がシュウ酸ジエステル生成反応を抑制するので、蒸留などの操作でガス中の水を除去した後、反応器に循環供給するのが好ましい。一方、再生された亜硝酸エステルが、亜硝酸メチル、亜硝酸エチル、亜硝酸n-プロピル、亜硝酸i-プロピルの場合は、再生反応の際、副生する水と共沸組成を形成しないので、再生ガス中に水を含有しないため、そのまゝの状態で反応器に循環供給できる。」
ことが記載されているから((3)右上欄下から3行目以降、同左下欄12行目まで)、亜硝酸のアルキルエステルと一酸化炭素を反応させて、しゅう酸のアルキルジエステルを製造する反応では水が存在すると反応を阻害することが示唆されており、したがって、亜硝酸のアルキルエステルと一酸化炭素を反応させて、しゅう酸のアルキルジエステルを製造する際に水の存在が反応を阻害するという知見は本願出願時点で新規ではなく、しゅう酸のアルキルジエステルの反応に先立って、あえて水を除去するようにすることは当然であり、反応を水が存在しない状態で行うこととする点に技術上格別の工夫があったものとは認めることができない。
第2点に関して
窒素酸化物とアルコールの反応を気相で行うことは本願明細書に従来技術として記載されているように本出願公知であり、前記反応を気相で行うにしても、しゅう酸のジアルキルエステル工程と結び付けるに際して反応原料及び生成物の処理の点で技術上格別工夫を要した点があったものとは認めることができないので、引用例1に記載されている気液相で行うことにかえて、気相で行うこととすることは単に従来から知られている手段に置き換えたにすぎないものと認められ、置き換えたことにより得られる効果にしても予期しえない程度の効果を奏し得たものとは認めることができない。
第3点に関して
アルコールと反応させる窒素酸化物に関して、酸化窒素と二酸化窒素の割合を特定すること、窒素酸化物とアルコールの割合を特定すること及びパラジウム触媒を担持する担体の表面積を特定することは、本願明細書に従来技術として記載されていることがらであり、本願発明で定められている範囲が技術的に見て格別のものとは認められないし、引用例1に記載されている方法においても従来知られている範囲の値として特定することに技術上格別の工夫があったものとは認めることができないし、またその結果予期しえない程度の効果を奏し得たものとは認められない。
以上述べたとおり、前記三つの相違点は引用例1及び従来から当該技術分野においてよく知られていたことがらに基いて容易に定めうることからであって、これらの組合わせにも技術上格別の意義のあるものとも認められない。
5.したがって、本願発明は前記引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
別紙図面
<省略>
別表
表Ⅰ1、2
<省略>
1. 実施例1.
2. 1時間にわたる流れ中における全モル数を基準とするモル%.
3. シュウ酸エステル反応器に再循環するアルコール.
4. 導管106に対する酸素の供給量.
表Ⅱ1、2
<省略>
1. 実施例2.
2. 1時間にわたり前記流れ中における全モル数を基準とするモル%.
3. 不活性物質としての窒素.
4. 導管106に対する酸素の供給量.
表Ⅳ1、2
<省略>
1. 実施例3.
2. 1時間にわたる流れ中における全モル数を基準とするモル%.
3. 不活性物質は水素である.
4. わずかに24モル%の不活性物質の使用により安全の危険を生じそうになる.
5. 導管106に対する酸素の供給量.
表Ⅴ1、2
<省略>
1. 実施例4.
2. 1時間にわたる流れ中における全モル数を基準とするモル%.
3. 不活性ガスは窒素である.
4. 導管106に対する酸素の供給量.
表Ⅵ1、2
<省略>
1. 実施例5.
2. 1時間にわたる流れ中における全モル数を基準とするモル%.
3. 不活性ガスは窒素である.
4. 導管106に対する酸素の供給量.
表Ⅶ1、2
<省略>
1. 実施例6.
2. 1時間にわたる流れ中における全モル数を基準とするモル%.
3. 不活性物質は窒素である。
4. シュウ酸エステル反応器に再循環されるエタノール.
5. 導管106に対する酸素の供給量.
表Ⅷ1、2
<省略>
1. 実施例7.
2. 1時間にわたる流れ中における全モル数を基準とするモル%.
3. 不活性物質は窒素である.
4. シュウ酸エステル反応器に再循環されるアルコール.
5. 導管106への酸素の供給量.